新刊『旅を栖とす』高橋久美子著に寄せて

この冬、高橋久美子さんとzoomを繋ぐと、炬燵にちゃんちゃんこを羽織った、往年の作家像を見事に現した美姿が、macの画面に大きく映った。

2020年、高橋さんと私が主催する『金夜に会いましょう』はコロナの影響でリモート開催となった。私は常々彼女を「日本の身体」と評している。日本の理想のお母ちゃん像が見事に嵌る。デジタル省庁の創設とともに、高橋久美子省庁が欲しい。環境庁が推進するサスティナビリティやらSDGsなんかより、20歩くらい先行った”シンニホン”直り、”クミニホン”に住みたいと思っている。

 

『旅を栖とす』高橋久美子著 2021年1月29日発売

 

お恥ずかしながら『栖とす』がすっと読めなかった。たしか奈良の『風の栖』さんの栖だったよなと、頭を文字が危なっかしい車道をなんども横断した。靴店NAOTのオーナー宮川さんがご親切にもお店の邸宅の中を案内して下さったのを思い出した。まさに店名の通り心地よい風が吹き抜けていた。

 

旅を栖とす

「ああこのタイトルは詩だな」と思わずにはいられなかった。Twitterのプロフィールに書かれた、作家・作詞家のそのあとに詩人とネームが追加された時、ひとりほくそ笑んだのは僕だ。彼女の文章のBPMを心地よくさせるグルーヴは見事な形容にある。「灼熱のタイ旅行記」の本文に書かれたー車窓の風景からはタイのスッピンが見えたーにもあるが、物事の“すっぴん”を見分ける眼力に恐れ入る。添加物をなんたるかを知り、その存在理由に悲しみ、未来からの目線で今を定義する。

 

本を読み始めてすぐ2019年の6月にギャラリー芝生で開催された『捨てられない物展』を思い出した。

 

 

展示された「捨てられない物」で一番印象深かったのが旅の手帳だった。小さな手帳の紙にこれでもかと黒く塗られた文字の葉が鬱蒼と密っせられて茂っていた。手帳の紙を文字で埋めるために旅に出てるのではと思わせるほど、そこにはカオスが確かに存在していた。なるほど、あれが、こうきて、こうなったのか。

 

 

彼女は肥えた土壌にいでて、無農薬の実をならす移動式農園なのだ。私は、時々こうして頬張ることができる。だから私はとても健康だ。“素晴らしい人”とは、人を健康にする仕事に従事する人だ。依存に由来するサービスが溢れる社会で、心身のヘルスケアをすっぴんで見つめる眼差しを持ちたい。

ーまろやかなドライブーで、私は“高橋久美子”を旅することができた。

そしてそれが友人であると言うこと。

私はそのことが嬉しい。

 

 

赤ん坊のお食い初めがようやく終わり、久しぶりに本を読む機会を下さった久美子さんに心からお礼を言いたい。皆さんにも是非お手に取ってパラパラと紙を捲って欲しい。旅がしたくなる。と言いたい所だが、自分の未来に生る、自身の実を鷲掴みたくなる。そして、健康で幸せにするべき人を、抱き寄せ、愛し、この実を頬張って欲しいと、そう願う1ページになるだろう。

 

『旅を栖とす』に寄せて。

綾部健司