LETTER
養殖の音楽、水槽を跳ねる
一昔前、虹という名称で親しまれていたという、
東名高速空路専用の信号機は、7色から鎖色がともった。
前を行く、マホガニーのボディに「ソニー物産」と書かれた
自家用の運送ジェットは音を立てることなく、
空中にぴたっと停止した。
隙間なく詰め込まれた、まだ粋のよい音楽が尾びれで
5cmはある軟化ガラスを叩いているのが、
窓の隙間から漏れ聴こえてきた。
あるモノは古典的なボサノヴァのリズムだったが、
その音色から言って天然物のコピーということは明白だった。
地産地消を農音水産省が推し進めたおかげで、
安く手に届くものは相変わらずの民謡のほかは、
高価なお金を出して養殖ものを買うしかなかった。
ほどなくして、信号は闇色に変わり、
水槽を浮遊するそれらは一同に揺れた。
地平を沈むことない、強い太陽の日射しにさらされた、
変わり果てた、と祖母が言っていた養殖の闇の姿を、
シートに横になった身体をすこし起こして眺めた。
いつか教科データに載っていた、
天然の眠りのことを思いだした。
Kenji Ayabe