LETTER
赤いベンツ
カリフォルニア空港からタクシー乗り場に向かう途中に
見かけた車の話だ。と言いたいところだが、
私は車をリペア修理に出したところ。
修理工の主人に渡された代車のキーは、
真っ赤なベンツのエンジンを吹かす。
ホノルルの国道36号線沿いに
誰かが置き忘れていった観覧車のような
レストランの駐車場での話だ。と言いたいが、
近所のドラックストアに水を買いに来た。
レバーをRに入れたいが、手間取っている間に
爺さんが物珍しげな顔で、
赤いベンツの運転に手間取っている運転手に
趣味の盆栽の話題を準備するレバーLに
すっとギアを入れたのが分かった。
ベルリンからの封書が年に1度届く自宅に
帰ってくるとき窓際に幼子を抱いた妻が見えた。
運転席にいる私に気づいたとき、
彼女はその口元に、ある置物を用意した。
凍った微笑だ。
Kenji Ayabe