LETTER
ロンパースと初夏
初夏
網を持った私から
魚が岩陰に隠れるように
2歳の息子は
ロンパースから逃れる
プチバトーの首回りが狭いようで
中野サンプラーザの大歓声のように
身体中からしぶきを上げたがって
彼はほとんどオペラ歌手
クリオネ クリオネ クリックリ
朝の体操の伴奏を
片手間に添えながら
早朝に淹れた珈琲カップには
近所さんにまだ下手ねと言われた
若いウグイスの鳴き声が吹き溜まる
右耳の裏のしこりを押しながら
パソコンの文字を刈り取り
養殖の鱒色に跳ね返った
川崎保全緑地の空に目を外らし
生産地と値札の付かない
今月の詩を収穫
「これが幸せでなかったら、
何が幸せだというんだ」
カート・ボネガットの叔父が言ったセリフを
私自身の保全緑地のついたてに
手書きであつらえた その隣には
日本年金機構から届いた
将来の年金額が電光掲示板で光っている
バナナをひとかじりした後で
皮のように張り付いてしまった制服に着替え
平時の運転を再開
各駅停車 次の停車駅は御徒町駅
Kenji Ayabe