kenji ayabe

LETTER

9月の潮騒

いつかの台風がすぎた後の

灰かかる海に 鉛で薄く引いた 1本の地平線

岸壁には切りたった 水族館に吹きついた風が

轟々と屋上の 黄色い旗をなびかせていた

 

海を失った 海の住人は

丘にあがるでもなく、

大空で わたしに腹を見せるわけでもなく、

ガラスに張りついた苔を食べるマンボウの仲間へと

忘却に静まった 水深へと潜っていく

 

飾り付けたひと その背丈の隙間から

ふいに現れたクラゲを 好奇心をエラで漉くって

あたりを酸化した欲で吐き汚している

 

それは わたしが

潮騒をからめ捕っていたから

 

Kenji Ayabe