kenji ayabe

LETTER

郵便の花

階段を降りて自動ドアが開くと、

すぐさま入場受付のカウンターの前に出る。

頭を下げている男性の後頭部が僕を迎えた。

「すみません。招待で綾部です」

僕の顔を見る事なく手元に置かれた名前リストに目をやると、

ピンク色のマーカーで1つの欄に線を引いた。

ポスターが隙間なく重ね貼られた受付台の端には、

まだビニールのかかった贈呈用の花が置かれていた。

隙間から見える札には文字が入っている。

「祝 御出演   綾部健司 様   from 旧バビロニア王国 小林忠祐」

花に目を取られていると、突然受付に声をかけられた。

「こちらがドリンクチケットです」

色白の頬に落ちた黒髪が一瞬女性と疑えたが、

小さな紙切れをポケットに入れた。

ロビーを進んで行くと、自動ドアが開いたときから響いている、

打ちっぱなしのコンクリートを這う、低い音が近づいてくる。

映画館の扉のように、重たいドアに手にかけると、影の隙から、

ー「過去でも、現在でもさ、“自由”と呼ばれてる女性が

着てるブレザーから、ボタンがひとつ外れた時にはさ、、」ー

淡くひかる何かが転がってきた。

腰をかがめ、手を取ると

「ドリンク引換」

と書いてあった。

 

Kenji Ayabe